需要曲線・供給曲線

 


1.需要曲線の導出(実験)

 経済学の分野で実験をできるケースは少ない。ここではクラスの生徒全員に参加してもらって、「本物」の需要曲線を描く授業を紹介する。需要曲線という抽象的な言葉を、日常生活の具体例に置き換える。毎回、大成功を収める授業の一つでもある。

(1)オークションの準備
 オークションをやって生徒がほしがりそうなものを一つ選ぶ。一番いいのは、生徒の持ち物の中から選ぶことだが、適当なものが見つからない場合に備えて、デジカメなどを持参する。値段としては3万円前後のものがよい。

(2)オークションを実施する
 黒板に、縦軸に価格、横軸に需要(=クラス人数)のグラフを描き、オークションを開始する。値段は最初は10円くらいのとんでもない安い価格をつけ、全員が買いたいというところからスタートする
 そのあと適当に価格を上げていき、そのときの価格と買いたい人の人数をグラフにプロットしていく。最後に2人か3人が競り合う頃には、教室はかなり盛り上がるはずである。バナナのたたき売り屋になったつもりでオークションを盛り上げることが肝要である。

(3)需要曲線を描く
 オークションが終了したら、最後にプロットされた点をなめらかな曲線で結ぶ。見事な右下がりの需要曲線が描けるはずである。世の中には、こうした目に見えない需要曲線が無数に存在することを付け加える。

教科書に書かれた理論現実を結びつける力、それが教師の力量

 である。一般に教科書で書かれた理論が、そのまま現実に当てはまる例は多くはない。現実の社会は、理論が前提とするさまざまな条件を満たしていないことが多いからである。
 しかし、抽象語の羅列では生徒はついてこない。抽象と具体のギャップをどのように埋めるか。創意工夫が求められる。

 

 (PS)余力があれば・・・

@ 需要曲線の傾きについて
コメのの需要曲線は垂直に近く、したがって価格変動が激しく、価格支持政策が必要となること。また、ダイヤの指輪のような奢侈品の需要曲線は水平に近く、しばしば広告で安売りが行われること、などにも触れるとよい。

A (応用問題)

 マクドナルドが、平日半額キャンペーンをしたところ、販売個数は4倍になり、売上高は2倍になったという。このことから、マクドナルドのハンバーガーに対する需要曲線を描け。

 この問題はわざと意地悪く作ってある。最初の価格と販売個数を(P0,Q0)とすることに気がつけば、簡単に描くことができる。しかし、生徒はこういう問題の出され方をすると、なかなか解けない。
 

 

2.供給曲線

 需要曲線に対して、供給曲線はうまい事例が見あたらない。ここは、一般的な説明をするしかないようだ。 つまり、供給曲線とは売り手側の曲線で、値段が高ければ売り手は増加し、値段が下がれば売り手は減少する。従って、供給曲線は右上がりカーブとなる。

 

 

3.需要と供給の一致

 (1)初級編
 需要曲線、供給曲線を個別に説明したあとは、いよいよ両曲線を重ねて書いて、均衡点、均衡価格、超過供給、超過需要などを教える。超過供給などと難しい言葉を使う必要はない。要は売れ残りである。売れ残りがあれば値段は下がる。そんなことは教えられなくとも、夕方スーパーの刺身売り場に行けば分かる。私なんかは、もっぱらそれ待ちである。値段が下がっていなければ、もう一回りして値下がりを待つ(笑)。
 反対に、品不足(超過需要)になれば、値段が高くなる。ワールドカップのチケットなど、途方もない高いプレミアムがつくことがある。そんな具体例を話しながら説明するのだが、それでも、生徒にはわかりにくかったりする。

以上で初級「チーチーパッパ」終了!(笑)。

        

 

(2)中級編
 
続いてこのあと中級編に入る。

@需要曲線が右に移動する場合。たとえば、
・人気が出る、
・所得が増える
A供給曲線が右に移動する場合。たとえば、  
・たくさんとれすぎた(大根、白菜など)
・技術革新がおきた(例、電卓の技術と価格下落)
 

 通常、教科書に書いてあるのはここまでである。しかし、この辺になると、もうかなりの生徒はちんぷんかんぷんになることが多い。ポイントは

1.需要曲線が動くのか、供給曲線が動くのかを考える。

2.右に動くのか、左に動くのかを考える。

この2段階で考えれば100%解けるはずである。

 


 

(3)上級編

 しかし、需要と供給を一致させる方法はこれだけではない。ここからが社会科学のおもしろいところである(チャンチャカチャーン)。現実の社会で需要と供給を一致させる方法をいろいろ考えてみる。

@市場による解決
 資本主義市場で需要と供給が一致するということは、簡単に言ってしまえば、お金を一番たくさん出した人だけが手に入れることができるシステムのことである。たとえば新築 マンションが1戸、2億円で売りに出された。買えるのは、それだけのお金を準備できる人だけである。

A先着順による解決。
 もし、その新築住宅を複数の人が買いたいと申し出てきた場合、開発業者が民間の場合は、たいていは価格をせり上げるのではなく、先着順で決まることが多い。先着順で購入者 が決まるのは、そのほか、人気歌手のコンサートチケット、デパートのバーゲンセール、社会主義下における人気商品などたくさんある。

Bくじ引き
 もし、その新築住宅が、住宅公社のような公の機関が売り出す場合は、くじ引きになるかもしれない。私が以前住んでいた堺市の家は、大阪府住宅供給公社が売りに出したもので、倍率50倍のくじに当たったものであった。なぜ50倍の倍率になったかというと、市場価格より2000万円ほど安かったからである。

Cテスト
 
「東京大学に入りたい人、手を挙げて」と言ったら、たいていの人はあげるはずである。(ただし、実際に教室でやると、恥ずかしがって誰も手を挙げない)。つまり、東大に対する需要は本当は高い。しかし、東大の定員(供給)は3000人と決まっている。そこで、テストをやって、上位から3000人を選ぶのである。

D選挙
 衆議院議員になりたい人もたくさんいる。つまり、需要は多いわけだ。しかし、定員(=供給)は限られている。そこで、選挙をやって当選者を選び需要と供給を一致させる。

Eケンカまたは戦争
 18世紀、イギリスとフランスがインドを巡って争った。インドは一つしかない(=供給)。それを二つの国が欲しがった(=需要)。さて、どうするか? 結局、両国が戦争をして、勝ったイギリスが植民地としてインドを手にいれた。古来、力で需要と供給を一致させるのは、もっとも一般的なやり方だったといえる。

 

 一般にわれわれの社会は、市場による解決、先着順、くじ引き、テスト、選挙など、様々な方法を適宜利用して需要と供給を一致させている。もし、この組み合わせを間違えると変なことになる。たとえば、

1.東大に入りたい人、先着順(笑)

2.東大に入りたい人、くじ引き

3.東大に入りたい人、市場的解決

 2の方法は、東大ではないが、国立大学の付属小学校の選抜方法としてでは実際に取り入れらている。1次試験でテストをやり、1次試験に合格した人に対して、 くじ引きで最終合格者を決める。

 3の方法も、「そんな馬鹿な」と思うかもしれないが、一部の私立大学(特に医学部)では、お金を積んで入学できるという噂もある (ただし、これはあくまで噂である)。もし、それが本当ならば、これは大学入試の市場的解決の例である。これからは、大学も生き残りをかけて、学力はなくても大学を経営面で支えてくれる学生と、大学の学力レベルを保ってくれる学生に分けて合格させる時代がくるかもしれない。

 そういえば、衆議院議員の選び方だって、市場的解決では????

 社会をこんな風に違った視点で見るのもおもしろいと思うのだが・・・。

 

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